琉球語の美しさ
ぴーダームーち〈火持ち〉
大正の初年までは、シきーヂ〈マッチ〉は極めて重宝で店から買うときでも、一個一個買った。まだマッチで、火をおこすよりは、埋れ火をつかった。灰の中にうずもれているフちーリ〈燠火〉を用いたのである。冬などはヂヌ〈地炉〉のまわりえおそくまで火にああたたまった。足を灰にのばしてあたたまるので、灰だらけになったりした。フちーリを大切に灰にうめてから休むのである。しかし、ときには、その埋めたフちーリが、朝までに消えてしまうこともあった。それでぴーダムーちのよい木をえらんでフちーリにして埋めておく必要があった。ハシギー〈樫〉が一番ぴーダムーちがよいとされていた。ユシーギ〈いすの木〉なども、比較的ぴーダムーちがよかった。
朝早く起きて、ぴーダニーが消えているときには、隣家へフちーリー いレーガ〈燠火を乞いに〉行ったのである。その頃まではハラーピサー〈跣足〉だったので、朝のつめたい土を踏みながら、ぴー いレーガ〈火を借りに〉行くのはつらい仕事であった。隣家をおこして、小さいフちーリをぴーとゥイ〈火取り〉に入れて、フーフー吹きながら、ヂヌ〈地炉〉にうつして、やっとたきつけて、朝のお茶の湯をわかし、朝食のしたくにかかった。あれも人の子たるひろいといわれるが、朝あけに火をいらへに(いレーガ)行くのは、もっとさむざむとしてわびしかった。