琉球語の美しさ
パダームちー<肌持ち>
国語にはなく、鹿児島方言にある。こんないいことばが、国語にぬけているとは全く気がつかないできた。ミーニシ<初北風>は夏の長い南島では、とくに待たれる。夏の強烈な日が弱りかけてやがてミーニシが吹きそめようとする頃を、八重山では、ッサナツィ<白夏>という。この頃から、ミーニシの吹く頃にかけてはパダームちー<肌持ち>がよいのである。パダームちーは肌に感じる感じをいう。ワカナチ<若夏>になり、やがて暑気がやって来ると、バサーヂヌ<芭蕉着>をまとう。芭蕉はハけーヂャ<蜻蛉>の羽のようにすきとおり、しかもひややかである。乙女ごらの若肌にふれるパダームちーのよさは、南国の初夏でなければ感じられないであろう。芭蕉の青い広葉のかげに、芭蕉着をかろやかにまとうて風にそよがれて立っている。これほどパダームちーのよさを感じさせられるのはない。
真夏になると、部落の人々は、皆、ぷシマーガーに行って水浴びをした。シーくヮーサー<蜜柑の一種>を輪切りにして、その酸で、芭蕉着をさらして洗濯するのだが、そのかおりが川ばたにはただようていた。女たちは赤土をとかして、黒髪を洗い、ハたスディヌちー<片方の袖をぬき片肩をあらわして>で桶に水をいっぱいみたして、頭にかづき、その雫にぬれながら、跣足で働いていた。見るからにパダームちーがよいことを感じた。
南国の風土から生まれた感覚的ないいことばである。
▶原稿に(一九八一・一〇・九)の記述あり