琉球語の美しさ

スベーヂちーミ<小便袋>

どの家でも、ソーグヮちャー<正月に屠る豚>を飼って、ひどくまずしくない家々では、一頭の豚を屠って、正月をむかえた。
大晦日の夜は、子供も夜通し起きている。夜がふけると、かまどには、あかあかと火をたいて大鍋に湯をわかし始める。そのそばであたたまっていると、どこからか、豚の悲鳴が聞こえてくる。その悲鳴は、決して悲しいさけび声には聞こえず、暁を告げる鶏の声のように聞こえた。まもなく、あちらこちらで、豚の断末魔のさけび声が聞こえた。新しい年が来たのを喜び合ったのである。
どの家でも豚を屠るので、大人たちは、誰も豚を屠る技術を身につけていた。四足を縄でかたくしばりつけられたまっくろい豚は、やがて庖丁で首をぐさりとさされて血がとろとろと流れて、ついに息がたえる。やがて沸とうしている湯をかけて白豚にする。子供心ながらさすがに屠殺のむごたらしさに眼をそむけた。毛をむきとられた豚はやがて、ぷシマーガー<地名>へとかつがれて、そこで解体して、ティンガマー<小さなかご>につめて家にはこばれて来る。その中からスベーヂちーミ<小便袋、膀胱>が必ず子供に手渡される。吹くと風船のようにふくれあがる。これが子供にとって正月の最上の遊び道具になった。
夜があけると、ミャー<家の前の広庭>に出てスベーヂちーミを打ちあげてよろこぶ。子供らは皆手に手にそれを持って、学校へ出かける。運動場には無数のスベーヂちーミの風船があがり、日の丸の旗とともに、朝日にかがやいた。

© 2017 - 2024 シマジマのしまくとぅば
〒903-0213 沖縄県中頭郡西原町字千原1