琉球語の美しさ

ベール<いやだ>

強く拒否して、いやだというときベールという。宮古の平良漲水港を出てまっさおな海を渡って、伊良部島へ向かう船上であった。島の人々がいっぱい乗り、にぎやかにしゃべっている。一人の乳飲児を抱いている若い母親がいて、急にひっぱたいているのを見てびっくりしたが、その乳飲児はまもなく泣きやんだ。母親の鋭い眼付きに、遠い南方の島々の人々をふと連想した。それからしばらくしてその母親の口からペールとするどく発する声を聞いた。たしかにペールときこえた。何の意かよくわからなかったが、その時の状況からして、はっきり何かを拒否しているように察せられたので、沖縄方言のベールではないかと考えた。宮古のbは半有声音である。b̥なのでpに近く聞こえる。ペールはあきらかにベールであることがわかった。あの若い母親の口から発せられたペール、今も耳底にこびりついてはなれない。この語が宮古でも用いられていることにも、深く興味をおぼえた。
▶原稿に(一九八一・七・七)の記述あり

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