琉球語の美しさ
トーニ<田舟>
トーニは、田舟である。静岡県登呂の遺跡から出た田舟を見たことがあった。木をくって舟のような形にしていた。おそらく上代田に浮べて、その中に、稲苗を入れて、田上をすべらせながら田植えをしたにちがいない。琉球地方でも、ユビータ<深田>に浮かべて稲の苗を運んだにちがいない。
奄美大島(大和浜)、沖縄本島、宮古島、八重山でも、トーネ、トーニが残っている。ところが今では、トーネ、トーニは、田に浮ぶ舟の意は全く失われている。
奄美大島大和浜方言でもゥワンプーネといい、豚の飼料入などの舟型の入れ物を指すようになっており、首里方言でも「トーニ 豚の餌を入れる器。大きな材木に溝を掘ったもの」となっている。
今帰仁方言でも首里方言と同じで、トーニにタ<田>が融合しているなどとは全く忘れられている。豚小屋の中に豚の飼料をほうりこみ、豚が食いあらしているあのきたならしい木を彫ってつくられた舟型のトーニを思い浮べる。トーニという語が、青い稲苗を入れて深田に浮んでいるのとは全くイメージのちがったものになりさがってしまった。
もう豚を飼うものも少なくなって、トーニという語は次第に忘れつつある。上代生活のにおいがしみ、庶民の生活とは深いつながりのある語であったのだが、トーニ〔tooni〕はtapune>taɸune>taune>tooniと変化したと解釈される。ところが、おもろに、おうねという舟を意味する語がある。タブニ〔tabuni〕にならずに、トーニ〔tooni〕となっているのは、「おうね」という語も広くつかわれていて、その「おうね」がta<田>と結合して、taune>toːniとなったのではないかとも考えられる。
庶民の生活と密着していて、興味ある語である。