琉球語の美しさ
トンボグヮー<偵察機>
戦争中、米軍は夕方になると、必ずわずかの時間、いっさいの砲撃をやめた。暗い壕の中にひそんで、食に飢え、水に渇していた人々は、この静かな時間に、野に出て芋をあさり、水を求めていた。敵の迫っているところでは、老人をはげまし、子供をおぶって、手にいっぱい荷物をさげて移動していた。そのとき空を米軍の偵察機がブーブー音をたてて飛び廻って、兵隊や住民の所在を正確にとらえていた。その偵察機が飛び去って姿が見えなくなると、またドカンドカン砲弾が飛んで来た。誰いうとなくトンボと呼んでいた。まるでトンボのような音をたてて、軽快に飛んでいたのである。阿修羅の巷の中の異様なものだった。戦場で死の彷徨をつづけていた老人は、これをトンボグヮーといっている。グヮーという接尾語がこの怪物についているのは極めて妙であり、なにかしら沖縄のおばあさん達のずぶとささえ感じられて妙である。