琉球語の美しさ

ほれる

共通語では「ほれる」ということばはなんとなくほほえましいことばである。女にほれる、ほれぼれする、とつかう。その意味はぼうとすること、恍惚として自分を失うことである。今ではほれるというとすぐ女を連想しがちであるが、そのことばは決して、こんな連想をともなったものではなかった。上代では、女でも美しい景色でも何でもよい、心をつよくひきつけられて自己を忘れてぼうとすることである。上代語はまだ男女関係とはかかわりのないものであったろう。沖縄の「ホレル」はついに自分を失うわるい方面にばかりつかわれてしまって、すっかり自分を失ってしまって気が狂うことにつかわれている。「ほれもの」というと共通語にはないが、ほれぼれとするような美しいものを連想するだろうが、残念ながら「ほれもの」とは琉球語では気狂いの意味である。「ほれる」が、こうまで深刻になってはもう悲劇である。
首里方言などではクイブリとは、恋惚れの意味から変化して、女の色情狂、いろきちがいのことになってしまった。気が狂うほど南島の人々は情熱的な恋でもしたのか。そうではなかろう。沖縄には恋のために気が狂ったのはそれほどはいない。情熱的であるが、あきらめるのも早いからである。

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