琉球語の美しさ
コー<香>
香ということばは、琉球の古代にはなかったことばである。香をたくのは、きっと仏教が入って来てから、沖縄にもたらされたにちがいない。焼香ということが行われてからのことであろう。焼香なども、香を焼くことである。香をたきしめた平安時代の風流も、王宮の一部には伝わったかもしれないが、一般庶民の生活には、ただ仏事と関係してのみ使われたにちがいない。焼香は、死者を供養する法事の時だけにつかわれている。
神を祭るお嶽の香炉の前には、焚き燃されない線香がおかれているのだが、大昔にこの香があった筈もなく、仏教が入ってから後のことであるといえる。してみると、この香は、沖縄人の宗教生活とどれほど深くつながって、その生活にしみて来たのであろう。香のけむりをはらって、ずっと古い時代をみつめたら、純粋の沖縄の精神生活もほの見えてくることになるのだ。けむりの彼方には何があったろうかと神代のむかしのうすあかりのようなものを感じる。