琉球語の美しさ
ユちー<雪>、パー くールン<歯にしみる>
南国はあたたかい。北国の雪国とは対照的だ。私はある方言研究者が雪に関する語彙を集めたのを見て、その豊富さに驚いたことがある。ところが南国には、人間が住みついて以来、雪の降った形跡はない。従って、ここに生まれ死んで行く人々は生涯雪を見ることがなかったのである。時たま霰(あられ)がふることがあるが、それを沖縄人は雪と称している。それでもつめたさを感じないわけではない。私の母は、そとから遊んで帰ってくる私の手を握っては河原の石のように冷たいといい、夜ねるとき私の足を両足にはさんであたためて下さった。床の中で、お前の足は河原の石のようだといつもいっておられたことが、いまだに忘れることが出来ない。畑がえりの下男などがほほかぶりをしたまま、冷えたいもをざるから取り出してほほばりながら、「あイ パーくーてィ<ああ、歯にしみて>」といっていたことばが忘れられない。南国人の感覚も冷たさにはそう鈍感ではないであろう。