琉球語の美しさ
ユーぴヂュイ<夜冷え>
沖縄は夏がながく炎暑がつづくだけに涼味を求めることが切である。初めて北風が吹きそめる頃の快い感触は本土の比ではなかろう。年中温暖なハワイでは九月になって少し暑さがましたように感じられたが、十月の声をきくと、一日一日夜の冷たさのますのが感じられた。散歩していると、教会の庭に美しい芝生があったので、腰をおろし、そのままねころんだ。露もおりていないのに、背に冷たさがしみる。顔の上の梢がかすかに微風にゆらぎ、梢の間から新月の光がもれている。ふとユーぴヂュイということばを思い出した。このことばほどあの時の私の感覚を的確に表現することばはなかった。夕方になって、昼の暑さとはうってかわって、涼しさ、冷たさが身にしみる。長い間夏の暑さに苦しめられた南の人々の涼味に対する快い感覚がユーぴヂュイということばにある。
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ハワイにもすっかりなれてしまった。初めて見た時ひどく感動した夜開花も、いくども見ている中に、最初ほどの感慨はもうおぼえなくなった。どこの家庭の庭も美しく、どこの街を通っていても街路樹は美しい。もうそれにもなれた。ハワイには至るところに教会がある。教会の周辺には美しい芝生がある。晩方、散歩して、ある教会の芝生にねころんでみた。急に背すじに冷たさがしみる。顔の上の梢には新月がかかっていた。ユーぴヂュイということばが自ら口に出た。あの時の感覚を表現するもっとも適確なことばである。長い夏がやっと過ぎて、やがてミーニシ<新北風>が吹きそめ、ひんやりと夜のつめたさを感じる。南島の秋は特殊な趣がある。暑さに苦しめられている南島人にとってユーぴヂュイのようなことばぐらい快くひびくのはない。シーくヮーサー<みかんの一種>が次第に黄味をおびて、黄金色になって行く頃である。