琉球語の美しさ
ヒちグとゥー<不吉な前兆者>
多くの人には鋸やかんなの音と死とを連想することはあるまい。ところが、田舎に育った五、六十代から上の年輩の者には、鋸の音やかんなをかける音は決して、気持ちのよいものではない。田舎で不吉の前兆に聞こえるあやしい物音のことをヒちグとゥーという。それは大方、杵の音であったり、大工の鋸や鉋の音であったりした。人が死ぬと、夜中から杵でお米をつくし、棺は必ず、にわか大工が死者の家に来てつくった。死者があると、必ず杵の音、鋸、鉋の音はつきものであった。しばしばこういう経験をした者にとっては、夜の杵の音などはいまわしい不吉な音であり、鋸の音も、家普請で四、五人も手ぎわのよい大工がさっと削っているようなああいう爽快な音ばかりは連想しないのである。ヒちグとゥーには棺桶の音や、龕(がん)の音もはいっていた。死者の家で棺桶をつくらなくなってから、人々は鋸や鉋の音にはもう不吉を感じなくなったのである。