琉球語の美しさ
解題
仲宗根政善は、膨大な量にのぼる原稿を残している。本書は、その一部、方言をめぐる随筆風の原稿をまとめたものである。忘れられない思い出をともなった方言をめぐる文章からなるこれらの原稿に、仲宗根政善は「単語の研究」「方言漫歩」「方言単語」とタイトルを冠し、残していた。
それは、次のようになっている。
Ⅰ「単語の研究」直筆原稿
とじひもで一冊に綴じられた仲宗根政善直筆の原稿。原稿には何度か手が加えられている。四百字詰め原稿用紙二二一枚。
Ⅱ「単語の研究」筆者原稿
Ⅰの「単語の研究」の原稿を、筆写させた原稿。部分的に手を加えている。四百字詰め原稿用紙で二六七枚。
Ⅲ「方言漫歩」「方言単語」
市販されている文芸日誌をもちいたもので、背表紙には「方言単語」と記され、扉には「方言漫歩」と記されている。二百字詰め原稿用紙三六二枚。
Ⅳ「方言単語2」
市販されている文芸日誌をもちいたもので、背表紙には「方言単語2」と記されている。二百字詰め原稿用紙三五二枚。
これら四種の原稿を活字化するにあたって、次のような配慮をした。
(1) ⅠとⅡとは重複しているので、本書では主にⅡを用い、メモ程度のものはとらなかった。
(2) Ⅱにはハワイ研修中、「琉球の方言」(一九六二)、「琉球語に残った古語」(一九六三)の演題で行った講演原稿が綴じられているが割愛した。
(3) ⅠとⅡで重複がみられる場合には、より完全なものをとった。但し、部分的な重複で要旨が少しことなるものについては両方とったものもある。
(4) 言語学の専門的な内容からなる原稿は割愛した。
(5) 今帰仁方言と異なる方言については(本書でとりあげている方言のほとんどが今帰仁方言であることから)編集段階で、今帰仁方言に改めた語もある。
(6) 原稿は、簡略的な音声記号で表記されているが、すべて仮名表記に改めた。仮名表記の方法は『沖縄今帰仁方言辞典』(仲宗根政善 一九八三 角川書店)に従った。
(7) 『沖縄今帰仁方言辞典』の仮名表記は、ひらがな・カタカナ混淆である。ひらがな・カタカナの混淆は、沖縄方言に特徴的な喉頭化音と非喉頭化音とを区別するもので、喉頭化音はひらがな、非喉頭化音はカタカナで表記している。
やー[ʔjaː]<おまえ> ヤー[jaː]<家>
わー[ʔwaː]<豚> ワー[waː]<輪>
めーシ[ʔmeːʃi]<お箸> メー[meː]<前>
いー[ʔiː]<胃> イー[iː]<絵>
(8) 沖縄中南部方言にはなく、沖縄北部方言などにあらわれる無気音と有気音との区別もカタカナとひらがなで区別している。無気音はひらがなで、有気音はカタカナで表記。
たーち[t’aːtʒ’i]<二つ> ターち[t’aːtʒ’i]<田へ>
くムー[k’umuː]<雲> クブー[k’ubuː]<こんぶ>
(9) 原稿では、今帰仁方言についてはほとんどの単語にアクセント記号も付されていたが煩雑さをさけるために削除した。
原稿 本書(七五頁)
nadaagu˹ruu˹maarn˺ɴ<涙がにじむ> → ナダーグルー マールン
(10) 本書の説明文の中で今帰仁方言については字体をかえて(太字)、他の地域の方言とは区別している。
(11) 項目の方言形に付された意味は一部分は編集段階でつけくわえた。
文責 島袋幸子
仲宗根政善(なかそね せいぜん)
一九〇七年四月二十四日沖縄県今帰仁村字与那嶺に生まれる。
東京帝国大学文学部国文学科卒業。琉球大学名誉教授。
一九九五年二月十四日逝去。
著書『ひめゆりの塔をめぐる人々の手記』(一九八〇年)
『沖縄今帰仁方言辞典』(一九八三年)
『石に刻む』(一九八三年)
『琉球方言の研究』(一九八七年)
『蚊帳のホタル』(一九八八年)
琉球語の美しさ
一九九五年七月七日 初版発行
著者 仲宗根政善
発行者 照屋全芳
発行所 ロマン書房本店
沖縄県宜野湾市真栄原二-三-三
電話 〇九八-八九七-七二四一
印刷所 ㈲研文堂印刷