琉球語の美しさ
タンかー<真向い>
タンかーとは真向いの意である。遙拝をする時、遙拝の目標になる地点に向って拝することをタンか トゥンという。真正面をマータンかーという。一年目の誕生日をタンかーという。相対座することをタンかーイーという。聞得大君があんじおそいと対座して「あまこ<眼>」をやりかわしたのはタンかーイーしていたのだろう。おぼつかぐらの霊(せ)刀(ぢ)をあんじおそいにさずけた時の姿はこの語によって彷彿(ほうふつ)させられる。
副詞にもなり、タンかーナ へールンというのは、等価値のものを過不足の差もなく交換するのであって名詞にしてタンかーゲーともいう。タンかーダちーというと夫婦二人だちで所帯を営むことで、いかにも初所帯のういういしさが感じられる。
宴席で二人が相対して舞うことをタンかーモイという。一人の男と一人の女が、観衆の拍手をあびながら舞う。それが夫婦である場合は一層わき立つ。これほどにぎやかな場面はない。もう部落からもタンかーモイがすたれて舞台の上にも一人の悄然とした姿が多くあらわれる。タンかーとは共同体の生み出した重宝なことばのように感じられてならない。真近く相対座してよろこびをかわした風習は次第にすたれた。