琉球語の美しさ
サディービち〈小網引き〉
サディーは古語のさで〈小網〉のことである。万葉集一巻の三十八に「上つ瀬に鵜川を立ち 下つ瀬に小網さし渡す 山川も よりてつかふる 神の御代かも」とある。
与那嶺では、サディーと単独には用いられず、小網のさではもうつかわれなくなってサディービちと熟語になってのこっている。サディーには小網の意味があったであろうが、サディービちに用いる網はかなり大きい。
真夏になると、ふだんあまり漁に行かない者までもくわわって、組をつくり、刳舟に網や、おいこみ用の芭蕉の幹をはいでつなぎたらした追いこみつなを積みこんで、パー〈外海〉へ出る。大方はサガース〈干潮の外側、白波のよせる岩礁〉で、追いこみ漁法をして、雑魚をとってくる。まっかに日やけした漁夫たちが、日の傾く頃に、長浜へ帰って来る。舟の中をのぞくと色あざやかないろいろの魚がいっぱいしていた。各漁夫が、魚をわけあって、えーくー〈櫂〉にさかなのいっぱいはいったティンガマー〈ざるの小さいもの〉をつるして、裸で帰って行く。まっかにやけたその体がいかにもたくましかった。首には海眼鏡が細いひもでつるされてゆれていた。隣近所は、そのおすそわけで、どの家の台所もにぎわっていた。漁夫を本業としている者だけが、サディービちにかかわったのではなかった。しかし部落の男たちは、皆が漁夫であったともいえるのであった。