琉球語の美しさ
ヤマーヤードゥイ〈山家〉
山の寄留部落である。ヤードゥイは、伊波先生は「宿り」であると説かれた。首里方言の士族が職がなく地方にくだって寄留民部落をつくった。彼らは、土着の百姓の中にはいって、土地を所有して農耕をすることは出来なかった。土着の百姓の手のとどかない山の手のやせ地を開墾して、なれない農業を営んでいた。ヤマーヤードゥイということばを、子供のとき聞いただけでも、いかにもわびしい山家を連想させた。老婆がティンガマー〈肩にかける小さい竹製のざる〉を背負ってよく本部落へやって来た。そのティンガマーの中にはちンヌく〈里芋の一種〉がはいっていた。この老婆たちがヤマーヤードゥイの方だということは、一見してわかった。その着物はよれよれになっていても、模様が大きくて、士族だということがわかったからである。どんなにおちぶれても、士族たるほこりを失うまいとしていたのであろう。模様の大きなよれよれの着物をまとうた老婆をみていると、なにかしら物悲しく、ヤマーヤードゥイということばが、わびしくひびいた。しかし、山手の方に住む彼らの住まいをみたのではなかった。夏の夕方になると、不知火が青く山の上をゆるやかに動いて行く。その火のかげに彼らの姿がちらついた。