琉球語の美しさ

シリ・シーリーバー〈せり〉

「せり」はぷシマーガーのハンちビー〈川下〉の土手に生えていた。ぷシマーガーはたえず清水が流れていて、夏の夕ぐれになると、遠く仲尾次部落からも、部落中のものが水浴びにあつまって来た。男女混浴であった。混浴といっても男は上流に女は下流にすこしはなれていた。昼時は浴びる人もすくなく、水も澄んで、川の面にはミヂガーミ〈みずすまし〉が多くむれてぐるぐる輪をえがき、ハマンた〈あめんぼう〉がすいすい水面をとびまわっていた。あンブちー〈堤〉の下にはガイ〈蟹〉の穴がいくつもあり、若草に顔をつっこみながら穴をさぐった。鼻の先にシーリーバー〈せり〉がにおうて来た。ティンガマー〈小さいかご〉に摘んで、あえものにした。この清水に葉をたれたせりは、清水にあらいきよめられたようにその味は少年の口にもしみた。もう川に清水も流れず、どこをさがしてもシーリーバーは見当らない。若い者には、そのことばさえ忘れられてしまった。シーリーバーのしげっていたあンブちー〈堤〉の杭にとまって、じっと清水の中を泳いでいるターゆー〈鮒〉をねらっていた、カンヂュイ〈かわせみ〉のあの美しい姿もうかぶ。カンヂュイのとまる杭さえどこにも立っていない。

© 2017 - 2024 シマジマのしまくとぅば
〒903-0213 沖縄県中頭郡西原町字千原1