琉球語の美しさ
プー〈矛〉
「ほこ」で、国語では矛をあてる。武器の矛の意だけにつかわれたというが、疑問である。
与那嶺では私の母屋の前にあガーリヤー〈東の離れ屋〉といリヤー〈西屋〉とが相対してあったが、与那嶺では一番最初の瓦葺だったかと思う。大正元年、私が六才のとき建築した。大正の初年は、部落はほとんど茅葺であった。茅葺の屋根を造るとき、人夫は上と下にいた。棒の先をといで、穴をあけて、縄を通す。その先のとがった棒をプーといった。上から縄を通して、下へさしこむと、下の方で、縄をはずして引きたぐる。上からまたプーをさしこんでくる。そのプーの穴に縄をいれて、上と下とで縄をひっぱって屋根をかためた。プーはそのやりとりのようにといだ棒のことをいい、矛の意には用いなかった。茅や藁で屋根を葺いた頃までは、プーを知らない者はなかったが、茅葺がなくなってからは、もうプーそのものがなくなり、ことばもほろびてしまった。
『全国方言辞典』に「ほこだけ 屋根をふくときにわらを押さえつけるために使う竹。神奈川県津久井郡・長野県下伊那郡・愛媛県大三島・壱岐」とある。
「ほこ」は武器以外にも、とがった棒を一般に称したと考えられる。