琉球語の美しさ

ナラーシー〈衣架〉

衣架。かけざお。大正の初年までは一般の家庭には、着物をたたんでおさめる箪笥はなかった。嫁入りのときにもって来るヘー〈笥〉だけだった。私の家でも祖母と母の古ぼけたヘーがふたつクイ〈庫裏〉にあった。チョーダンシン〈京箪笥〉があったが、その中には、父の書類などがしまわれていて、衣類は一枚もはいっていなかった。また箪笥などにしまっておくべき晴着は一枚か二枚ぐらいしかなく、ヘーの中もがらあきだった。
普段つける着物もそう多くはなかった。部屋の片隅に竹の棒をつるしていて、それに着物から帯から手拭からいっさいをかけてあった。その竹の棒がナラーシーであった。どの家に行っても、部屋でまず眼につくのはナラーシーであって、お客の眼につかないところにかけておくという習慣などはなかった。百姓には至極便利なものであった。昭和になると、衣服も次第に多く、箪笥もそなえられるようになって、ナラーシーは次第に使われなくなって、今では、もうことばそのものも忘れられようとしている。この語もおそらく、全国で使われていた語であろう。
『全国方言辞典』「ならし ①稲架。千葉県夷隅郡・隠岐。②衣架。かけざお。土佐幡多(幡多方言)・九州(日葡辞書)・久留米(はまおき)・和歌山県西牟婁郡・九州・南島。③横槌。筑後久留米(はまおき)」

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