琉球語の美しさ
うナーミー〈牝牛〉
牝牛をいう。牝牛のクてィー〈ことい〉は万葉集にもあり、全国方言にもかなり残り、沖縄でもまだどの地方にものこっているが、それに比べると、うナーミーはかなり消滅してしまったようである。おそらくうナーミーもクてィーと同じく、全国にかなり広がっていた語にちがいない。はじめて私が沖縄の今帰仁以外で知りえたのは、たしか国頭村宇嘉であった。わざわざ尋ねて聞き出したのではなく、話者の口から自然に出たウナングヮーということばを聞いてうれしかった。国頭地方には、今でもかなり残っているにちがいない。
『全国方言辞典』にもこうある。
おなめ ①妾。めかけ。奥州南部(物類称呼)・岩手・秋田 ②→うなめ。牝牛。静岡・長野・岐阜・愛知・三重・奈良・和歌山・京都・兵庫・中国・四国・大分・宮崎・熊本・鹿児島。おなみ 鳥取汗入・島根・岡山・広島・山口・愛媛県大三島・長野県小値賀島
大正の頃までは、どの家でも牛を飼っていた。荷物の運搬、耕作には多く牝牛を使用した。ハサーギの木かげには、いつも牛がつながれていた。川にも浴びせる牛が水につかっていた。牛の鳴きごえはどこからも聞こえて来たのだが、今では、牛を飼っている家は、部落で二、三軒しかない。子供らにはうナーミーなどということばがわかるはずはなく、もう老人の中にうずもれたままで、滅多に口にもしない。
▶原稿に(一九八〇・四・一三)の記述あり