琉球語の美しさ

トゥぱーシリヌカミ〈縁側の神〉

昨年、久高島のイザイホーのとき、島を訪ね、部落の一番東端にあるアガリヤーという屋号の西銘ムトさんの家に泊めてもらった。
西銘さんは、イザイホー祭りの主役の掟神の西銘シズさんとは親戚で、信仰深い方であった。髪の結い方を忘れた神人たちが、朝早くから髪を結わせに来るし、当のムトさんも白い紺地の着物に、白い鉢巻きそしめて祭りに出かけて行かれた。ヤジクだといっていた。毎朝、仏壇にうやうやしく手を合わせる。家の柱には、機銃のあとがのこっていた。主人を沖縄戦でなくしたという。仏壇に礼拝をすませると、縁側に出て、東の方向を拝んでいた。なにを拝むのですかと尋ねると、トゥパチリという。何ど聞きなおしても、トゥパチリといいトゥパシリとは発音しなかった。トゥパシリの訛りにちがいない。どんな神を拝んでいるのですか、と尋ねてもはっきりしなかった。あれからトゥパチリの神はどんな神だろうかと尋ねつづけているのだが、はっきりしない。福地唯方氏の話によると、塩屋でウンガミ祭りのときにも、トゥパシリの神を拝むという。そのときは、海神であろうという。
先日、西平ウト叔母が、父の七年忌をのばす祈願をされた。今年は私と今の母の生まれ年の未年なので、延期しなければならないというのである。仏壇に祈願をこめてから、縁側に出て、線香を立てて、祈願をされた。何の神ですかときくと、トゥぱーシリの神だという。どんな神ですかと尋ねても、はっきりした答えはえられなかった。
わたしの郷里にもまだトゥぱーシリの神は信仰されているのをはじめて知った。久高の西銘ムトさんと叔母のしぐさがいかにもにていた。
▶原稿に(一九七九・一二・二四)の記述あり

© 2017 - 2024 シマジマのしまくとぅば
〒903-0213 沖縄県中頭郡西原町字千原1