琉球語の美しさ

クとゥハヂムン〈孤独者〉

父がやや老衰がすすんだ頃、ワヌーヤ クとゥハヂムンということをしばしば、口にされた。これまで聞いたこともないことばであった。今帰仁で母と二人でいて、なかもよくなかった。いさかいが多かったせいであった。よくよく聞いていると、身よりのない孤独者という意である。老衰のためではあったが、自らをクとゥハヂムンといい、さびしがっておられた。父の口からはじめて聞いたことばであるだけに、クとゥハヂムンということばが、老衰した父のおもかげといっしょにうかんでくる。父は兄弟姉妹もなく、一人っこであった。あるいはそのことも、心の中にあったのかもしれない。クとゥハヂムンということばを残して父は九十一才でこの世を去られた。
▶原稿に(一九八二・五・九)の記述あり

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