琉球語の美しさ
シラーミ〈虱〉
虱は、シラーミ、サーミという。仲程志津恵さんが、原稿を整理中、大きなしらみをポンたーということを知り大笑いされたという。小さいしらみはギザーミという。虱の卵はギザーシといい、全国方々にこの方言は残っている。以前女性はぽかぽかとする日和に、草の上に坐りこみ、一人が相手の腿(もも)の上に額をつけて寝て、黒髪の中の虱をとっていた。お互いにかわりあって虱をとるので、シラーミ ミンヂェイという。ミンヂェイはミミヂアイで指先でつまみつぶし合うことである。いかにものどかな情景であった。虱のたからない女性といってはいなかった。やがて清潔になり、虱を見ることは、滅多になかったが、沖縄戦の時は虱がものすごいほど湧いた。古波蔵満子という気立てのやさしい生徒がいた。南風原病院から、摩文仁波平に移動してから、古波蔵はすっかり衰弱していた。ある日、波平の民家で、はからずも、古波蔵とあった。彼女は小禄の海軍部隊が民間に残してあった手榴弾を拾いあげて、「先生これいりませんか」と、私にさし出した。私が頭をふると、そのままそっとおいた。上原当美子の話によると、満子は身を支えるにもやっとであった。頭のしらみになやまされていることを訴えたので、髪を解いて見た、無数のしらみがはいまわっているのに、上原はぞっとした。とりつくすことなどとても出来そうにない。思いきってぱさっと切った方がよいとすすめて、黒髪を切ってすてて、その後風呂敷をかぶっていた。六月十七日、伊原東第一外科壕入口で、直撃弾をくらって、古波蔵は即死した。上原は古波蔵に砂糖黍を折って来てあげようと、外に出て帰り、壕に近づいた時に、直撃弾が落下したという。古波蔵の頭髪にたかっていたしらみのことが、シラーミという語を思い出すたびに浮ぶ。